食物アレルギー
食物アレルギー
食物アレルギーは「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して、生体にとって不利益な症状が惹起される現象」と定義されています。
一般的には食物アレルギーは原因食物を経口摂取してアレルギー症状を惹起すると考えられていますが、実は体内への摂取経路は限定されていません。例えば、宙にまった小麦粉を吸入し、喘息発作を起こした場合でも食物アレルギーに分類されます。
「抗原特異的な」とは、簡単に言うと鶏卵アレルギーの方は鶏卵のタンパクに反応し、鶏肉には反応しないなど、原因とするものと反応するものが1:1に対応していることを指します。
「免疫学的機序」は主にはIgEが関与するものとリンパ球などが関与するものがあります。免疫学的機序によらない反応はたとえ抗原特異的な反応であっても食物アレルギーではなく、食物不耐症に分類されます。例えば、お子さんでは乳糖不耐症のように消化酵素の欠乏あるいは活性の低下に基づく下痢症が問題となることがありますが、これは牛乳アレルギーではありません。
保育園や学校において、保護者と園医・学校医との共通理解の下で、アレルギー疾患を持つお子さんの症状や原因を正しく把握し、アレルギー対応を適切に進めるために作成された書類です。お子さんを保護者や教職員などのお子さんを見守るすべての方が共通理解を持てるようにコミュニケーションツールとして活用されます。
生活管理指導表は集団生活の場において、アレルギー対応を要望する保護者の申し出により作成されます。このため、アレルギーを持つお子さんすべてが提出する書類ではありません。一度作成されても、お子さんの成長とともにアレルギー疾患は寛解・増悪することがあります。このため、最低1年に1回の提出とそれに伴う、教職員との協議が必要です。
食物アレルギーは単一の疾患ではなく、免疫学的反応の種類・症状出現の仕方・誘引などに基づき分類されています。保育所におけるアレルギー疾患生活管理指導表には食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎・即時型・その他(新生児・乳児消化管アレルギー・口腔アレルギー・食物依存性運動誘発アナフィラキシー)が記載されています。
乳児期のアトピー性皮膚炎の患者さんに認められる食物アレルギーです。原因の食物の摂取により湿疹の増悪を来します。また、原因食物摂取により後述する即時型の症状を呈することがあります。病名にもあるように乳児期以降にはアトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関連は乏しくなります。
食物アレルギーで最も典型的な症状を示すタイプです。原因食物を摂取して、通常は2時間以内に症状を呈します。
IgE抗体を介さずに症状を起こします。2021年のガイドラインからは新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症に病名変更されました。その名のとおり新生児や乳児早期に発症し、慢性的に嘔吐・血便・下痢・体重減少などをきたします。
食物摂取直後に唇や口の中の粘膜でアレルギー反応が起こり、口腔内の違和感・かゆみ・むくみなどを起こします。全身に症状を呈することはまれと考えられています。
原因となる食べ物を食べただけではアレルギー反応は起こりませんが、運動すると誘発されるタイプです。概ね摂取後2時間以内の運動がきっかけとなることが多いと考えられています。
アレルギー反応により、蕁麻疹などの皮膚症状・呼吸しづらい・反復する嘔吐・ショックなど多様な症状を呈する状態です。特に意識が不明瞭になる(ぐったりするなど)の場合や脱力をきたす場合にはアナフィラキシーショックと呼ばれる危険な状態です。アナフィラキシーは食べ物に限らず、虫刺されやお薬などでも起こり得ます。
発赤・蕁麻疹などの皮膚症状のみの場合、無治療もしくは抗ヒスタミン薬(主にアレグラ・アレジオン・アレロックなど)を内服し、少なくとも1時間は安静にして経過観察します。呼吸困難、ゼイゼイ・ゼコゼコなどの呼吸音・声がれ・ふらつき・意識障害など呼吸窮迫・ショックが疑われる場合には、アドレナリン(エピペン)を筋注します。呼吸器・ショック症状には抗ヒスタミン薬が効果がなく、迅速にアドレナリンを投与する必要があります。
エピペンはアナフィラキシーに備えたアドレナリン自己注射薬です。原則本人・保護者が接種しますが、緊急時には教職員・救命救急士がご本人の代わりに投与できます。(処方されたお子さん以外には投与できません。)
抗ヒスタミン薬を過信せず、適切なタイミングでエピペンを投与しましょう。
小麦アレルギー:醤油・酢・味噌
鶏卵アレルギー:卵殻カルシウム
牛乳アレルギー:乳糖・牛肉
ゴマアレルギー:ごま油
魚アレルギー:かつおだし、いりこだし
肉類アレルギー:エキス
上記食材の除去が必要なお子さんに給食を提供することは安全性の観点から困難なことが多く、集団生活の場においては概ね弁当対応が必要となります。
旅先での緊急時の連絡先・エピペン携帯・食事関して特に注意しましょう。
引率する方と事前にアレルギーの重症度や対応など詳しく相談しましょう。食事に関しては宿泊施設毎に打合せが必要です。宿泊施設での対応に限界がある場合には、安全を優先し、レトルトなど普段食べ慣れているものを持参することも考慮しましょう。
旅先では、アレルギーの申し出るを躊躇していしまうお子さんもいらっしゃいます。食物アレルギー情報カードを持ったりすることもよいでしょう。
密閉された空間では、空気中を漂う原因食物が気になるかもしれません。しかし、最重症の方を除き問題となることはありません。
アレルギー対応食を機内食として提供している場合があります。しかし、機内食は食品表示法のアレルギー表示の範疇ではないため、重症の方にとっては安全性が確保されるものではありません。
エピペンを携帯する際には、予定が立ったら早期に航空会社に相談しておきましょう。
Q 兄弟が食物アレルギーの場合、アレルギー検査をしてから離乳食をはじめるべきですか?
当院には多くの食物アレルギーの方が通院されていますが、時々質問を受けることがあります。
「食物アレルギーを疑う症状を経験されていなければ必要ありません。」とお答えしております。
多くのご両親が兄弟の食物アレルギーがあると次のお子さんにも発症するのではないかと心配されます。確かに、アレルギーは遺伝と環境の二つの相互作用により発症するため、「遺伝性」を心配されるのはごもっともと思います。
一方で、現在までのところ、ご兄弟に食物アレルギー発症があっても、疑わしい症状を呈したことがないお子さんでは、血液検査や皮膚テストによる「スクリーニング」は推奨されていません。
米国の0~21歳まで食物アレルギーの兄弟を持つお子さん(1120名)の調査では、約半数の方はアレルギー検査で陽性反応を示すものの実際に食べても症状を出しませんでした。
アレルギー症状を実際に呈するお子さんの頻度は8人に1人程度で、一般集団での頻度の12人に1人と大きくは変わらない数値と報告されています 1 。
その他にも、いくつかの検討がありますが、「兄弟に食物アレルギーのあるお子さんでは、食物アレルギー発症リスクはやや上がるものの、アレルギー検査を行うデメリット(痛み・費用・偽陽性・離乳食導入の遅れなどなど)の方が上回っている」と考えられています。
このような科学的根拠もあり、当院では誘発症状を疑う病歴がある場合を除いて、食物アレルギーの「スクリーニング」を目的としたアレルギー検査実施を推奨しておりません。
離乳食開始にあたりご心配な方は、環境再生保全機構の離乳食に関する動画を是非ご覧ください(以下のリンクになります。)。前職で同僚であった栄養士の長谷川先生が「食物アレルギーに配慮した離乳食の進め方」に関して解説されています。
https://www.erca.go.jp/yobou/event/r02remote01/index.html
1. Gupta RS, Walkner MM, Greenhawt M, et al. Food Allergy Sensitization and
Presentation in Siblings of Food Allergic Children. J Allergy Clin Immunol Pract. Sep-Oct
2016;4(5):956-62. doi:10.1016/j.jaip.2016.04.009
Q 鶏卵アレルギーはどのくらいの患者さんがいますか?
お子さんの食物アレルギーの中で最も多い原因です。特に乳児(0歳)では半数以上を占めます。
Q 鶏卵アレルギーは治りますか?
赤ちゃんの時に発症した方は6歳までに6割以上が加熱鶏卵を食べられるようになる(耐性獲得)と報告されています。学童期になると治りにくくなりますが、6歳まで持続していても12歳までに半数以上の方が耐性獲得するとの報告もあります。
Q 鶏卵アレルギーだとうずらの卵はたべられますか?
うずらやあひるの卵は鶏卵アレルギーだと食べられない事が多く、避けるようにしましょう。
Q 鶏卵アレルギーだと鶏肉の除去は必要ですか?
いいえ、除去の必要はありません。
Q 鶏卵アレルギーの代替食品を教えて下さい。
タンパク質の摂取には肉・魚・ダイズ・大豆製品を用いましょう。薄切り肉2枚(30-40g)程度・魚 1/2切れ・豆腐(絹ごし)1/2丁・牛乳 コップ1杯が鶏卵1個分にあたります。
ビタミンDの摂取には紅鮭1口(2.5g)しらす干し小さじ1杯(2g)が卵黄1個に相当します。Baby D(森下仁丹)などの利用もおすすめです。
調理の際のつなぎには、片栗粉・すりおろしたいも・れんこんなどが代替食品としもちいることができます。
Q 牛乳アレルギーはどのくらい患者さんがいますか?
牛乳アレルギーは0歳のお子さんの食物アレルギーの原因として、2番目に多く、原因として3割程度を占めます。また、アトピー性皮膚炎に合併しやすい事が報告されています。
Q 牛乳アレルギーは治りますか?
赤ちゃんの時に発症した方は年齢が上がるとともに飲めるようになるお子さんが増えます。6歳くらいまでに8割程度が食べられたとの報告もあります。一方、アレルギー検査で数値がとても高い方や少量で症状を出してしまう方は治りにくいことも知られています。
Q 牛乳は卵のように加熱したりすると飲めますか?
いいえ、牛乳アレルギーの原因タンパク質は加熱や発酵による変化をうけにくく、症状の出しやすさはあまり変わりません。小麦粉と混ぜて高熱で加熱すると多少変化しますが、重症の方では症状を出してしまいます。
Q 牛乳が飲めないとどんな栄養が不足しやすいですか?
もっとも不足しやすいのはカルシウムです。小魚や青菜に含まれますが、なかなか十分に摂取することが難しいため、牛乳アレルゲン除去調整粉乳・調整粉末大豆乳などを積極的に活用しましょう。いずれも独特の風味があるため、赤ちゃんのころから使用することをおすすめしています。
ちなみに牛乳100mL 相当のカルシウム摂取にはひじきの煮物小鉢1杯を食べる必要があります。アレルギー用ミルクであれば、200mL程度ですみます。
Q アレルギー用ミルクとはなんですか?
牛乳タンパク質を分解して、アレルギーを起こしにくくしたミルクです。分解程度が高くなるとよりアレルギーをおこしにくくなりますが、風味が悪くなるのが難点です。最大分子量が分解度の目安になりますが、ミルフィーHPが最も大きく、次にMA-miとなります。もっとも小さいのはニューMA-1ですが、MA-miの半分程度の分子量です。
Q アレルギー表示で気をつける点はありますか?
乳糖はタンパク質ではなく、一部の重症な方を除いて摂取可能です。次に乳成分が入っていなくても紛らわしい名前があるので注意しましょう。例えば、乳化剤・乳酸カルシウム・カカオバター・ココナッツミルク・乳酸は乳製品ではありません。ちなみに、乳酸菌は乳製品ではありませんが、乳酸菌飲料は乳製品です。
最後に、プロテインサプリなどにはホエイやガゼインなどの乳蛋白を主成分として製造していることがあるので注意してください。
Q 小麦アレルギーはどのくらいの患者さんがいますか?
乳幼児の食物アレルギーの中で3番目に多い原因です。
Q 小麦アレルギーは治りますか?
6歳までに7割弱の方が食べられるようになる(耐性獲得)と報告されています。多くの方で、自然に耐性獲得が望めますが、小麦の特異的IgE値が高い方では耐性獲得率が低くなります。
Q 小麦アレルギーだと大麦やライ麦はたべられますか?
ω5グリアジンと呼ばれるタンパク質が共通して含まれるため、その蛋白に対する特異的IgE値が高い方では、症状を呈する可能性があります。しかし、麦茶などは蛋白の含有量が低く、多くの方が安全に摂取できます。大麦は摂食機会も多いため、少量から摂取を開始し、気になる症状があれば経口食物負荷試験にて確認することをおすすめしています。
ハトムギやオート麦では、大麦よりも症状を出す可能性が低いと考えられています。
Q 小麦アレルギーの代替食品を教えて下さい。
米粉・片栗粉・他の雑穀粉などを使用します。ただし、市販の米粉パンの中には小麦が添加されているものもあり、購入時にはアレルギー表示をよく確認しましょう。
EUや米国製品ではグルテンフリーと表記されている食品があります。小麦が入っていないと誤解される方が時々おられますが、日本の「アレルギー表示」の基準は欧米よりも厳格なため、同食品でも小麦含有とアレルギー表示がされる場合があります。